障害者雇用水増し問題に思う

会長 栗原 勝美

命の危険がある猛暑、ゲリラ豪雨、台風、大地震、様々な自然災害が多く発生した夏が過ぎました。災害で亡くなられた方々に対して心からお悔やみを申し上げます。また、被災された皆様にお見舞い申し上げますとともに、1日も早い復旧・復興を願っています。

年4月に障害者法定雇用率が民間企業は2.2%、国・地方自治体は2.5%に引き上げられました。そのさなか、8月に国や地方自治体の機関での「障害者雇用水増し問題」が発覚しました。国の行政機関では、33省庁の内、実に27省庁で「水増し」が行われていたのです。その他、立法機関、司法機関、多くの都道府県の機関で同様の「水増し」が行われていた実態が明らかになっています。

我が国の障害者雇用に関する法整備の歴史は下記の通りです。

我が国の障害者雇用制度は、「障害者法定雇用率制度」と「障害者雇用納付金制度」の2本柱で支えられています。障害者法定雇用率制度は、これを定めることで、国・自治体・民間企業が全体として障害者の雇用を促進し、障害者の働く権利や生きる権利を保障しようとする社会保障制度の1つです。一方、「障害者雇用納付金制度」は、「法定雇用率」未達成の起業に対して雇用すべき障害者1人あたり5万円の反則金を納付させ、それを財源として障害者を雇用している事業主が行う職場改善等にかかる諸費用を支援したり、障害者雇用調整金、報奨金、各種助成金を支給することにより、障害者雇用を進めることを目的としているものです。

我が国の民間事業所の障害者の実雇用率は、1961年(昭和36年)には0.78%でしたが、1977年(昭和52年)には1.09%、1989年(平成元年)には1.32%、2017年(平成29年)には1.97%(法定雇用率2.0%)と上昇しています。また、民間事業主における法定雇用率未達成企業の割合は、「障害者雇用納付金制度」が導入された当時から46%強から50%程度で推移しており、2017年(平成29年)は50.0%です。問題なのは、従業員1,000人以上の大企業でも、未達成が40%弱であり、その内、60%は1人も障害者を雇用していないという実態です。障害者1人分の給料を支払うより納付金を支払った方が特だという考えがあるのかもしれません。

「障害者の雇用の促進等に関する法律」の第76条で「国及び地方公共団体は、障害者の雇用を妨げている諸要因の解消を図るため、障害者の雇用について事業主その他国民一般の理解を高めるために必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。」と定めています。そして、毎年9月を「障害者雇用支援月刊」としているのです。厚生労働省が公表している2017(平成29年)の国の機関の実雇用率は2.50%(41/42機関)です。その内訳は、行政機関2.43%(32/33機関)、立法機関2.36%(5/5機関)、司法機関2.58%(4/4機関)です。また、都道府県の機関の実雇用率は2.65%(152/156機関)と公表しています。まるで、その時々の法定雇用率に合わせたように見えるのは私だけでしょうか。既に記述したとおり、国や地方自治体の機関で大幅な水増し問題が発覚したことはゆゆしき問題です。この水増し問題は、法定雇用率制度が導入されたときからずっと続けられてきたとされています。2017年の実態だけをみると実雇用率は1%程度ではないかとされています。民間企業を指導すべき立場にある国等がこのような違法行為を続けてきたことに、怒りよりもむなしさを感じています。なぜ、このような状況が続けられていたのか、国は明らかにし、それを踏まえて「障害者雇用計画」を策定しなければなりません。

話はそれますが、『新潮45』の8月号で「LGBTは生産性が無い。そこに、税金を投入するのは如何なものか。」とする差別的論文が掲載されました。これに対して批判が相継いでいましたが、なんと、『新潮45』10月号に「そんなにおかしいか…論文」と題する特集を組み、8月号の論文を擁護するような差別的文章を掲載したのです。LGBTを痴漢と同一視するような記述を含み、極めて差別的な内容です。そして、このような論文や特集が掲載された背景を明らかにすることもなく、反省を述べることもなく、「校正が不十分だったのは否めない。」等、『新潮45』の体制に問題があったようにして、休刊する幕引きを図りました。『私(編集長等)はLGBTについて、掲載したような考え方を持っている。したがって、反省も撤回もしない。しかし、会社への影響等が大きいので、校正等の技術的問題があったというように論点をそらして休刊する。』、そんな声が聞こえてくるような気がします。

私は、障害者雇用率水増し問題にも、『新潮45』の問題にも、共通の背景があるのではないかと考えています。「障害者は生産性が低い」、「LGBTは生産性が低い」といった差別的施行があるのではないでしょうか。我が国には、村八分、5人組等、自分と違った人を否定する悪い文化がありました。理性で考えると、障害者等を差別するのは良くない、しかし、感情の根底では差別してしまう、そのような考え方がまだあるのだと思います。ブータン国王夫妻が来日したとき、「ブータンではGNH(国民総福祉料)を国民理念にしている。」との話題に感心が集まりました。しかし、ブータンでも障害者は就学・就職が困難な状態です。「障害者のパン屋さん 日本に学び、ブータンで人気店に」というネットニュースがありました。ジブネ・ウウォンモさんというブータンの女性がJICAのプログラムで来日し、障害者が働いている日本のパン屋さんを知り、それをブータンで実現した記事です。そのウウォンモさんがブータンの障害者感について「仏教国ブータンでは、障害者は前世で残酷な行為をしたため、現世で障害を持って生まれたと考える人が多いのです。」と説明しています。この根底には、業報輪廻の思想があります。釈尊が本当に輪廻転生を説いたのか、仏教者の中でも見解が分かれているそうですが。「輪廻の流れを断ち切った修行僧には執着が存在しない。為すべき善と為すべからざる悪とを捨て去っていて、彼には煩悶が存在しない。(スッタ・ニパータ715偈」、「生れによって卑しい人となるのではない。生れによってバラモンとなるのではない。行為によって卑しい人ともなり、行為によってバラモンともなる。(スッタ・ニパータ136偈)」。ここで、仏教論を展開するつもりはありませんし、私自身しっかりとした宗教観を持っているわけでもありませんが、我が国には、未だに「輪廻転生思想」があり、それが障害者差別に繋がっていることを完全に否定することはできないのではないでしょうか。いわゆる「障害者差別解消法」でさえ、「意図しない差別は差別としない」と言った極めて残念な発想が含まれています。そして、そのような差別意識が、国や社会の中枢で働く人たちの中に多く存在するとすれば、極めて重大な「悪」と言わざるを得ません。

私たち障害者は、このような「障害者雇用水増し事件(あえて事件と言います)について大きな声を上げなければなりません。なぜこのような事件が起きたのか、その背景を明らかにするとともに、国や自治体で策定される「障害者雇用計画」の中に具体的な取り組みが盛り込まれるよう注視する必要があります。特に、私たち視覚障害者の雇用は厳しい状況です。毎年公表される「障害者の職業紹介状況」で、視覚障害者については求職者の44%程度が就職しているとなっています。この数字は、ここ、6・7年大きな変化がありません。法定雇用率が国・自治体2.5%、民間2.2%になっても、視覚障害者の雇用は相変わらず現状のままということになりかねません。「障害者雇用計画」の中に、国の機関や地方自治体の機関でヘルスキーパーを導入してもらう、抜本的な障害者雇用対策を求める等、各地で具体的な行動を起こす必要があります。

魅力ある進路こそ理療教育再生の切り札です。ドイツなど外国の事例に学び、雇用納付金制度を国や自治体の機関にも適用させる、治療院開業も対象となるような基金を立ち上げさせる等、今こそ、協力して大きな声を上げていきましょう。


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