「コロナ禍の中で考えているあれこれ」

会長 栗原 勝美

猛暑の夏が過ぎ去り、爽やかな秋風が吹くころとなりました。しかし、新型コロナウイルス感染症は沈静化することなく、冬に向けて再拡大も懸念されています。コロナ禍社会の中で、新たな生活様式が求められ、理療教育においても工夫しながら日々の授業を行っている状態です。会員の皆様の日々のご努力に感謝申し上げます。

このような状況の中で、全日盲研等様々な研究会・研修会が中止されたり延期されたりしています。本連盟の活動も様々に制約されており、理事会や定期総会もオンラインで行いました。予定されていた中央研修会も12月に延期しましたが、これもオンライン開催とならざるを得ない状況です。気分が落ち込み消極的になりがちですが、このようなときだからこそ、協力して気持ちを高め、活発な活動をしていきたいものです。

さて、総会では、新たに「理療教育に関する将来構想検討委員会」を立ち上げました。これは、近年の視覚障害教育、とりわけ理療教育の現状を打破し、厳しい状況の中から新たな未来を展望するために皆様にお願いして設置したものです。若手・中堅の皆様の英知を総動員し、柔軟な発想で未来を切り開いてもらいたいと願っています。9月7日に、児童書専門店クレヨンハウスの創設者で作家の落合恵子さんが「明るい覚悟 こんな時代に」を出版されました。内容は全く関係ないのですが、私はこのタイトルを耳にしたときはっとしました。理療教育の危機も悲観的にならずに「明るい覚悟」で乗り越えなければならないのだということです。理療教育将来構想検討委員会の委員の皆様には、是非、明るい覚悟で議論を進めていただきたいものです。

これまで私は、理療科の教員像として専門性豊かな教員、臨床力の高い教員、生徒理解の深い教員等様々な要件を述べてきました。しかし、最近、視覚障害当事者が多い盲学校の理療科教員としてできることは何なのかを考えるようになりました。盲学校のあはき課程には一般企業での就労は困難だった中途失明者が多く入学してきます。入学後、理療を適職として卒業していくものもありますが、様々な事情で退学せざるを得ない人たちもまた多くいます。退学した人たちはその後どのような人生を過ごしているのか気がかりです。一般企業は無理、理療も無理、このような人たちの自立を進めるには、新たな職業開拓が必要です。昭和30年頃、国がいくつかの盲学校に委嘱して新職業開拓の事業が行われましたが、現実には実を結びませんでした。また、技術革新の中で消えつつある職業もあります。しかし、現在はその当時とは社会構造も職業構造も技術レベルも大きく変化しています。たとえば、農業も工場内で行われるような時代です。今だからこそ、改めて視覚障害者の自立を促進する新職業開拓を行えるのではないかと思います。私たち当事者がその声をあげなければ、誰もそのような気運を高める行動を起こしてはくれないでしょう。考えてみては如何でしょうか。

コロナ禍の中で、授業時数が少なくなり、基礎・基本を重視した授業を行おうとするとき、改めて、理療教育における基礎・基本とは何なのかを考えることが多くなりました。臨床につながるすべての科目が基礎・基本だといってしまえばそれまでですが…。西洋医学の基礎は解剖学、治療の基礎は経穴でしょうか。小中学校の基礎・基本は「読み、書き、計算」だとすれば、中途失明者で文字を持たない人たちは基礎・基本を失ってしまったことになります。小中学校でノートの取り方をしっかり指導されていない生徒もいます。家庭学習が身に付いていない生徒もいます。理療教育を学ぶ前に身に付けておくべき基礎・基本に課題がある生徒を前にしたとき、個人として、集団としてどのように指導していくのか理解しておくことが必要だと思います。

私は再任用4年目をまもなく終了する年齢です。それでも、指導の中で新たな発見をすることがあります。先日、理療科3年生の授業で強揉みの按摩を課題に取り組みました。いつも「丁寧に揉んでください。」と指導しても、十分押圧できていない状態で揉捏したり、時間がかかりすぎたりなど「今ひとつ!」という評価だった生徒が、強揉みの気持ちで取り組んだところ基本を大切にした按摩ができ、被術者の評価も良好でした。その生徒は強揉みができるまでの状況ではないのですが、強揉みをするという気持ちで取り組んだ結果これまでの課題が解決されたのです。丁寧とは「相手の立場・気持ちを考えて落ち度なく行動する様子、細かなところまで注意が行き届き、慎重に扱う様子」という意味です。具体的な指示ではないので、生徒によっては指導者の意図が伝わらないことがあります。「強揉み」という具体的な指導を行うことで丁寧な按摩ができたのだということです。

専門性豊かに、視覚障害当事者だからこそ行わなければならないことは、理療教育の基礎・基本とは、日々の発見を大切にしてなど考えながら、残り少ない教員生活を送りたいと思っている今日この頃です。

コロナ禍に埋没することなく、日々の授業を大切にして明日の理療を展望しましょう。?


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