会長挨拶・コラム COLUMN
平成27年10月:就任の挨拶
7月29日に行われた日本理療科教員連盟第64回定期総会において藤井亮輔前会長が退任され、私が第14代会長に就任いたしました。微力ではありますが、役員一同心を新たにして活動して参りますので、一層のご支援・ご協力をお願い申し上げます。
戦後の近代理療教育が始まって70年になります。この70年を概観すると、理療教育・あはき業の制度構築が行われた前期(1945~1975年頃まで)、理療教育について高等教育の流れが促進された中期(1976~2000年頃まで)、鍼灸専門学校の乱立、それに伴う低レベルの鍼灸師の増加、「リラク」や「ボディケア」などと銘打って無資格でマッサージを行う無免許業者の横行、有資格者の雇用環境の悪化など課題が山積し、新たな理療教育の在り方が問われている後期(2000年頃から現在まで)に分けることができると思います。70年を経た今、理療教育は新たな転換期を迎えているのです。
高校専攻科から大学への編入や「専門職大学」の検討など、多様な高等教育の在り方が議論されています。平成28年4月には高校専攻科から大学への編入が可能になります。理療科・保健理療科の卒業生がどの程度大学への編入を希望するか、それは現在のところ未知数です。将来あはき関係の仕事をするにしても、自己の成長と社会的評価の向上のために若い理療科・保健理療科の卒業生には是非大学編入を考えてほしいと思うのは私だけでしょうか?
次に、専門学校の情勢に目を向けてみます。1998年以降の鍼灸専門学校の乱立は鍼灸師の質の低下を招き、鍼灸の発展に大きな悪影響を与えました。専門学校全体として「鍼灸師の粗製濫造」と揶揄されたこの事態を反省し、「あるべき鍼灸師像」を目指して、健全な鍼灸師教育を行ってほしいものです。早ければ、平成29年4月には「専門職大学」が制度化される情勢です。過当競争の中で生き残りをかけ、「専門職大学」を目指す専門学校も出てくることでしょう。
一方、視覚障碍者を対象とした理療教育は今、これまでに経験したことのない危機に直面しています。臨床室で治療を受けているある患者様に「視覚障碍者がマッサージや鍼の仕事をしていることを知っていますか?」と聞いたところ「盲学校の臨床室に来て初めて知りました。」と答えました。私が子どものころは、一般の人たちが「按摩や鍼は眼の見えない人の仕事だ」という認識をもっていましたが、視覚障碍のあるあはき業者が減少する中で一般人の意識からそのイメージすらなくなってきています。教育界、業界においても視覚障碍のあるリーダーは少なくなりました。誰も「視覚障碍者はあはきの仕事をしてはいけない。」と声高に言う人はいません。しかし、このままではそう遠くない将来、視覚障碍者の理療は自然淘汰されてしまうという事態もありうるのではないでしょうか? ある卒業生が「この位の給料なら生活保護を受けていた方がましだ!」と言ったことがあります。完全とは言えないまでも「最低限度の生活」を保障される社会の中で、不平・不満はあっても仕事を求める意欲は低下し、仕事が得られないことによる「飢餓感」はなくなってきてはいませんか? そしてまた、恵まれた環境に身を置く私たち理療科教員も今の生活に満足し、「あはきの免許が取れたら何とかして就職させたい!」という強い願いや使命感も失いつつあるのではないか、そんな声が聞こえてきそうです。真綿で首を絞められるように、気づいたときには身動きが取れなくなっていたということにならないよう、私たち一人一人の意識改革が必要です。
盲学校の理療教育関係者は山積する課題に苦悩しています。あはき課程の生徒数減少には歯止めがかかりません。平成14年と平成27年を比較すると、本科保健理療科は336人から124人(-63.1%)、専攻科保健理療科が390人から274人(-29.74%)、専攻科理療科が992人から593人(-40.22%)と減少しています。特に、近年の減少傾向は著しく、27年度は26年度から108名減少しています。その結果、27年度の1学級当たりの平均生徒数は、専攻科理療科が3.57人、専攻科保健理療科が2.74人、本科保健理療科が1.65人です。協調性や社会性を身に付けるための指導は成り立ちにくい生徒数の状況です。平成27年度の盲学校のあはき課程に在籍する生徒数の合計は991人(研修科を除く)で、1校当たりの平均は17.1人です。26年度から27年度にかけての生徒数の減少は、平均規模の学校が6校分無くなったようなものです。いずれかのあはき課程がある58校の中で、在籍生徒数が9人以下の学校が11校、30人以上の学校が10校です。大都市圏を除いて30名以上の学校はありません。日本の将来推計人口は、2030年が1億1662万人、2048年が9913万人、2060年が8674万人です。この観点からも、各都道府県に1校以上の盲学校がある現在の姿を維持することができるのか、また、維持しようとすることが正しい選択なのか考える必要があります。
視覚障碍者を対象とした理療教育があってこその理教連です。15年後、30年後の理療教育・盲学校を展望し、視覚障碍者の理療を後世に引き継いでいくのは50歳くらいまでの理療科教員です。地方分権が進められる中で、各地域で将来のあるべき姿を議論し、具体的に行動していくことが大切です。議論しつつ一定の方向性を見いだし、一丸となって視覚障碍者を対象とした理療教育の発展に取り組みましょう。