会長挨拶・コラム COLUMN
平成30年2月:機能訓練指導員についての対応
私は、「機能訓練指導員へのはり師、きゅう師参入問題」や「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律19条第1項を巡る違憲訴訟(あん摩マッサージ指圧師課程非認定処分取り消し訴訟)」への対応策に頭を悩ませながら、緊張した2018年元旦を迎えました。視覚障害者を対象とした理療教育・理療業は年々厳しさを増してきていますが、いよいよ、生き残りをかけた混迷の時代に突入した感を強く抱いています。
厚生労働省は、平成29年(2017年)12月18日に公表した「平成30年度介護報酬改定に関する審議報告」において、「通所介護等における機能訓練指導員の確保を促進し、利用者の心身の機能の維持を促進する観点から、機能訓練指導員の対象資格に一定の実務経験を有するはり師、きゅう師を追加する。個別機能訓練加算、機能訓練体制加算における機能訓練指導員の要件についても、同様の対応を行う。」との方針を示しました。このままこの方針が実施されれば、本年3月頃には通知が出され、10月頃からは健常のはり師、きゅう師が機能訓練指導員として配置され始めます。数年後には介護老人保健施設から視覚障害があるマッサージ師の姿はなくなり、使い勝手の良い健常のはり師、きゅう師が激増することでしょう。視覚障害があるマッサージ師の新規採用はなくなり、これまで働いてきた視覚障害があるマッサージ師がやめれば、その補充は健常のはり師、きゅう師に置き換えられる、病院や診療所から視覚障害があるマッサージ師が消滅しようとしているのと同じ構図が頭に浮かびます。
私たちは、鍼灸接骨院や病院・診療所ではり師、きゅう師による無資格マッサージが行われていることを知っています。本来の業務である鍼灸を行わないことを前提とした機能訓練指導員へのはり師、きゅう師の参入は、介護現場で公然と、はり師、きゅう師による無資格マッサージが行われる可能性が極めて高くなることを意味しています。はり師、きゅう師による無資格マッサージが介護老人保健施設の利用者に行われれば、マッサージによる過誤が増えるばかりか利用者の機能の維持にも悪影響を与えるなど、介護の質の低下を招くのではないかという懸念があります。
本連盟では、毎年「卒業生実態調査」を行っています。平成14年から平成28年までの卒業生実態調査をまとめてみると、卒業生の就労実態の変化がよく分かります。平成14年度から18年度までの5年間の平均と平成24年度から28年度までの5年間の平均を比較してみると、開業は20.45%から7.32%に、医療関係は、11.98%から4.84%に減少しています。一方、ヘルスキーパーは5.78%から17.85%に、老人施設は12.03%から18.92%に増加しています。施術所については、平成21年度以降、訪問リハビリ(訪問マッサージ)と治療院を分けて調査しているため、平成14年度から18年度までのデータと単純に比較することはできません。そこで、施術所(治療院)と訪問リハビリを合わせて比較してみると、施術所への就労は35.63%から45.99%に増加しています。平成24年度から28年度までの5年間について、老人施設と訪問リハビリへの就労を合わせると42.27%となり、介護現場に4割以上の卒業生が就労している実態が分かります。すなわち、現在は、訪問マッサージ、老人施設、治療院、ヘルスキーパーの4職域で全体の80%以上を占めており、ここから介護関係の就労がなくなれば、更に厳しい就労環境になることは申し上げるまでもありません。
訪問マッサージへの就労は近年の特徴でしたが、この職域も徐々に厳しくなっています。2017年の1年間で全国の介護サービス事業者の倒産件数(負債額1千万円以上)は111件に上り2000年に介護保険制度が始まって以来最多となっています。負債総額は約150億円に膨らんでいます。業種別では訪問介護と通所・短期入所が、いずれも44件と多くなっています。介護給付費の削減の中で、今後療養費における往療料の距離別加算が廃止されるなどの変更が行われればこの職域も危うくなってきます。
私たちは、視覚障害があるマッサージ師の就労を守る立場から、また、介護の質を維持・向上させる立場から機能訓練指導員へのはり師、きゅう師の参入取り消しを求めて厚生労働省の方針に強く反対しています。視覚障害者団体の中には、「あん摩マッサージ指圧師課程非認定取り消し訴訟」への悪影響を懸念し、機能訓練指導員へのはり師、きゅう師参入問題に反対する取り組みに消極的なところがあります。あはき法19条第1項は、環境整備によって視覚障害があるあマ指師の生活を守る保護規定であり極めて大切なものですが、この違憲訴訟が決着するまでには5年、10年がかかると思われます。機能訓練指導員へのはり師、きゅう師の参入の影響は、数年後には顕著になることでしょう。あはき法19条第1項は、言うまでもなく視覚障害があるあマ指師にとって最後の砦です。視覚障害者関係団体が結束し全力を挙げて死守しなければなりません。しかし今、機能訓練指導員へのはり師、きゅう師参入問題に対する取り組みをおろそかにすれば、視覚障害者の理療教育・就労に大きな禍根を残すことになります。この問題は、あはき法19条問題と同様に、視覚障害者関係団体が一丸となって行動すべきものです。内外の一部の皆さんからは、本連盟が過激な行動を取っているように見えるかもしれませんが、卒業生の就労がなくなれば盲学校等で行われている視覚障害者の理療教育は消滅しかねません。視覚障害がある卒業生の就労を守り、盲学校等での理療教育を守りたい一心で取り組んでいることをご理解いただき、ご支援をお願いする次第です。
混迷の中でも伝統ある理療教育を消滅させることは許されません。教育力を高め、私たち一人一人が教員として信頼される中で就労問題に取り組み、明るい未来を勝ち取るまで頑張りましょう。