会長挨拶・コラム COLUMN
平成30年5月
会長 栗原 勝美
平成30年度を迎えました。平成29年4月に施行された「改正あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師学校養成施設認定規則」(以下、改正認定規則と略す)を受け、本年度からそれに対応した新カリキュラムで新たなあはき教育が展開されます。「改正認定規則」の精神をどこまで反映した教育ができるのか、内外から注目されるところです。
そのような中、私は理療教育の方向性について葛藤の日々を過ごしています。第26回あはき師国家試験合格率の結果、国家試験在り方検討会や機能訓練指導員への鍼灸師参入問題等で足並みが揃わない視覚障害関係団体、あはき師の資質向上を目指す関係者の動きの中で視覚障害者の理療教育はどのような立ち位置を取るべきなのか、迷いは深まるばかりです。そこで、皆様からの批判を覚悟してその迷いを赤裸々に書き、これからの理療教育の在り方について一石を投じたいと思います。
第26回あマ指師国家試験の合格率は、健常者を含めた全体が83.0%でした。同様に、はり師は57.7%、きゅう師は62.5%でした。これを健常者と視覚障害者に分けてみると、あマ指師は健常者が90.2%(現役は94.8%)、視覚障害者が62.2%(盲学校現役83.9%、更生援護施設等80.8%)です。同様に、はり師は健常者が58.5%(現役74.6%)、視覚障害者が45.0%(盲学校現役66.4%、更生援護施設等48.9%)、きゅう師は健常者が63.1%(現役79.1%)、視覚障害者が52.0%(盲学校現役73.3%、更生援護施設等54.3%)です。さらに既卒者をみると全体に極めて低く、特に視覚障害者では、あマ指師が10.3%はり師が6.9%、きゅう師が10.4%と低迷しています。現役だけをみれば、健常者の合格率はいずれも75%以上であり、今回のあはき師国家試験のレベルが高すぎると言えるかどうか迷うばかりです。結果から見れば、国家試験の合格率は、健常者、盲学校、更生援護施設等の順に3層になっていることが分かります。盲学校の現役受験者は比較的健闘していますが、既卒者の合格率は目を覆うばかりの状況です。現役で合格できなかった者については、あはき以外の進路を、本腰を入れて開拓する必要を感じます。国家試験の合格率だけがそれぞれの学校の教育力を示しているわけではありませんが、上記の結果を重く受け止め、教育力の劣化がないか、各人、各校、盲学校、更生援護施設等、それぞれの組織で点検し、改善しなければならないのではないか?そんな思いもあります。
次に、「改正認定規則」では、臨床力の向上が求められていますが、視覚障害者の理療教育では国民のニーズに応えられるような実技力を身に付けさせることができているのでしょうか。理療科教員の実技力・実技指導力の課題が指摘されて久しいですが、この間、その改善に向けて組織的な努力が積み重ねられてきたと言えるでしょうか。あはき師の資格試験が都道府県知事試験から国家試験に移行した当時、「学力は厳しいが実技なら大丈夫!」という声を聞きました。今、あはき師国家試験において大量の不合格者を出している実態ですが、その不合格者の多くは「実技なら大丈夫!」と胸を張って言い切る自信があるでしょうか。国家試験不合格者の多くが、知識も実技も一定の水準に達していないとすれば、繰り返しになりますが、あはきに依存しない進路を本気で開拓しなければなりません。「改正認定規則」を受けて、専門学校の教員養成課程では優れた臨床力を身に付けるためのカリキュラムにする動きがあります。理療科教員養成施設や盲学校でも、理療科教員の実技力向上を図る具体的な改善がなされなければ、一層、視覚障害者の理療教育は低迷するのではないか、さらに迷いは深まります。
機能訓練指導員への鍼灸師参入に反対する取り組みでは、多くの会員の皆様に御協力をいただきましたが、残念ながら視覚障害者団体が団結してこの問題に対応することができませんでした。あはき法19条裁判でも今ひとつ結束できていないのではないかと感じます。視覚障害があるあはき師のこれからの状況を左右する様々な課題に対する考え方について、賛成の人、反対の人、無関心な人、様々な立場があることは承知しています。しかし、これからの理療教育、視覚障害者のあはき就労・生活に甚大な影響があることについて、その1点で結束できない視覚障害者・団体は如何なものか、あきらめのような無力感とぶつけようのない怒りを感じます。
これ以上書くと、怒りが増幅してきてとりとめがなくなりますので、この位にしておきますが、視覚障害者の未来のために意見を交わしつつ、結束していきたいものです。
現在、学習指導要領の改訂が進められていますが、改訂の理念の1つは「主体的・対話的な深い学び」です。理療科教員の70%は10年以上の経験者ですが、この機会に自己の教授法について自己点検してみては、と思います。教員として経験を積む中でマンネリ化していないでしょうか。生徒の多様化は深刻な課題ではありますが、教育成果が上がらない状況をそのせいにしてはいないでしょうか。若い教員は先輩の教員に学び、経験豊かな教員でも若手の授業の中から良いところを学び、信頼できる関係の中で個々の教育力を高める努力が必要ではないでしょうか。そして、その積み重ねこそが組織としての教育力向上につながると信じています。
この巻頭言を書きながら、改めて自分を振り返り、気持ちを整理することができました。紙面を借りて、自分の迷いにつきあわされても、皆様には迷惑なことかと思います。この乱文を読まれ、私と一緒に迷っていただける方がたくさんいて欲しい、と願っています。
さあ、迷いはここまでにして、生徒に対して真剣に向き合う日々を過ごしましょう。