会長挨拶・コラム COLUMN
令和1年5月:学習指導要領の改正に寄せて
会長 栗原 勝美
2019年2月に「特別支援学校高等部学習指導要領の全部を改正する告示(以下、新高等部学習指導要領)」が公示されました。ご承知のように、この改正では、「主体的・対話的で深い学び」がキーワードの1つになっています。また、保健理療科の目標に、健康の保持・増進と共に疾病の治療に寄与することが加えられたことも大きな変更です。その結果、専門基礎科目においては指導内容が理療科とほぼ同様となりました。表記の告示を踏まえ、あはき課程でもその実現に向けて授業改善を図っていく必要があります。
理療科・保健理療科では、視覚障害当事者の教員が多数を占めています。授業改善に当たり、今一度自分の障害受容の状況や教育観・生徒観を確認してみませんか?
盲学校での理療教育は視覚障害当事者の教育が主体なのでそこに利点があると言われることがあります。しかし私は、視覚障害当事者だから生徒の視覚障害理解や視覚障害に配慮した教育が優れているとは考えておりません。視覚障害の特性を科学的に理解し、そこに視覚障害当事者としてのメンタリティを加えた上で教育に携わることが大切ではないかと思います。一方で、科学的な視点のみで視覚障碍者を理解し、教育をしてはならないとも思っています。そこに、人間としての温かさや教員としての情熱を加えて、自分の指導観を高める努力が必要なのではないでしょうか? そして、教科の高い専門性が求められていることは言うまでもありません。
他方、在籍する生徒の実態には厳しいものがあります。批判を恐れず述べれば次のような状態ではないでしょうか? 弱視であるか全盲であるかを問わず、仕事を転々とし、やがては就労困難となり、社会で傷つき、家に閉じこもっているよりは学校にでも行ってみるか、と言った状況でしょうか? 社会で傷つく中で、自己肯定感や有用感が低く、一方で、自分の痛みには過敏でありながら他人の痛みには不寛容といった状況もあるかと思います。入学しても、あはき師として職業自立する目標がなく、漫然と学校生活を送っている様子もあります。文字等、学習に耐えるスキルもなく、障害受容も低い、多くの生徒がそのような実態ではないかと思います。また、元々コミュニケーションスキルが低いのか、対人関係に課題がある生徒も少なくありません。このような生徒を対象にして、視覚障害の受容を助け、視覚障害を補うための自立活動(視覚リハ)と職業自立に向けた理療教育を同時に行っているのが現状です。
現状を踏まえて新高等部学習指導要領の理念を実現するには、上記の教育観や指導観が大切です。その上で、生徒理解を深め、生徒の意欲を引き出す努力が必要になります。主体的・対話的で深い学びを実践するには、生徒一人一人が見通しをもって意欲的に取り組むことが求められます。そのためには、私たちが、各生徒の実態と職業自立に向けた目標に合わせて具体的な取り組みを明確に示すことが大切です。
以前、このような話を聞いたことがあります。それは、「目標が行動を作る、行動が習慣を作る、習慣が人生を作る。」というものです。短期目標、中期目標、長期目標を明確に意識させ、短期目標を1つずつ達成する中で、達成感を味わい、自己肯定感や有用感が高まり、他人にも寛容になる、そんな教育の積み重ねができれば魅力的な理療教育に繋がるのではないでしょうか。
様々な立場から、理療教育について資質の向上が求められています。国家試験は難しくなっても易しくなることはないでしょう。進路では、即戦力が求められています。それに対応するには、まさに主体的・対話的で深い学びの実践が必要なのです。新年度を迎え、日々ご多忙のことと存じますが、自分を振り返り、所属している組織を振り返り、生徒を見つめ、情熱をもって教育を実践するために、「深く考える!」、そんな時間も大切にしましょう。