会長挨拶・コラム COLUMN
令和1年10月:変革のとき
会長 栗原 勝美
猛暑の夏が過ぎ去り、爽やかな秋風が吹くころとなりました。温暖化の影響か、この夏も自然災害が多く発生しました。被災された皆様には、心からお見舞い申し上げます。会員の皆様はいかがだったでしょうか。
さて、7月24日には京都テルサを会場に第1回理教連中央研修会が行われました。テーマは「活気ある盲学校の未来へTry!~さらなる生徒募集活動に向けて~」で、パネルディスカッションと特別講演を行いました。
パネルディスカッションでは、本連盟7支部の代表がパネラーとなり、各支部の生徒数の現状や生徒募集活動の取り組みを発表し、会場を含めて討論を行いました。具体的な内容は「研修会報告」に譲るとして、私が感じたことは「各校とも、考えられることはしっかり取り組んでいるなあ!」と言うことです。それにもかかわらず、盲学校の生徒数減少には歯止めがかかりません。盲学校全体の児童生徒数は、2018年度の2,731人から本年度は2,616人へと減少しています。特に、専攻科理療科、専攻科保健理療科、本科保健理療科の生徒数減少が著しく、昨年度の合計824人から本年度731人へと減少しています(盲学校長会調べ)。
本当に盲学校の理療科・保健理療科に進学するような人たちはいないのでしょうか。大学、短期大学、高等専門学校に在席している視覚障害がある学生数は、2018年5月現在で868名です。特別支援教育制度が始まってから10年以上が経過し、高等学校に在席している視覚障害者も増えているものとみられています。これらを踏まえれば、当面は盲学校理療科・保健理療科の魅力が、他学部の教員、児童生徒、保護者はもちろんのこと、普通高校や高等教育機関で学んでいる視覚障害がある人たちにも伝わるように情報発信し、生徒確保に努力することが大切だと思います。
パネルディスカッションの後、仲泊聡氏(理化学研究所網膜再生医療研究開発プロジェクト上級研究員)による「眼科疾患の最前線&ロービジョンケアと視覚障害教育」と題する特別講演がありました。眼科医療の最前線では、今や糖尿病性網膜症で失明する人はいなくなったこと、高齢化に伴い緑内障が最も多いこと、網膜色素変性症に関連する遺伝子が200種類以上見つかっており、20年後には遺伝子特異的治療が、視覚障害が出現する前に行われるようになるのではないかと言うことでした。
現在、盲学校の理療科・保健理療科に在籍している生徒の多くが中途失明者です。そして、眼疾の主体は、網膜色素変性症や糖尿病性網膜症です。医療の進歩と少子化により、視覚障害者が減少することは明らかです。盲学校の理療科・保健理療科を現状の形のまま残すことは困難と言わざるを得ません。
以前「21世紀の理療教育の在り方」を検討した際、当時、国で議論されていた道州制を見据えて理療科・保健理療科の再編案を提案したことがありました。その当時は、現実のものとして受け止められず、理教連総会において否決された経緯があります。未だに道州制は行われていませんが、あらためて理療科・保健理療科の規模や設置について議論し、上記の課題に対応できるビジョンを描き、その実現に向けて関係者の理解と協力を得る努力が必要なのではないでしょうか。
どんなに医療が進歩しても、当分の間、少なからず視覚障害者はいるものと思います。たとえ視覚障害者が少数でも、盲学校の火を消してはなりません。
特に、あん摩マッサージ指圧は、現在もなお、視覚障害者の主要な職域です。近年は、中途失明者の現職復帰など事務的な仕事も増えていると言われます。しかし、AIの技術がさらに進歩したとき、視覚障害者による事務的な仕事や情報処理の仕事がどこまで残っているでしょうか。これまで、視覚障害者の新職業開拓としてピアノ調律や電話交換手の仕事が開発されましたが、これらは技術革新の中で消滅しようとしています。AI革命の中で生き残るのは、創造的な仕事だと言われます。人の体に直接触れ、健康の保持増進や、疾病の予防・治療に関わっていくあん摩マッサージ指圧こそ、AI革命の中でも生き残ることができる職域だと思います。そのように考えても、AIの進歩に不安があります。AIを搭載したマッサージロボットのコマーシャルに、何とも言えぬ不安を感じます。
それでも、あん摩マッサージ指圧の効果には、手のぬくもりや心理的効果を含めたプラスアルファがあると考えています。しっかりとした技術と安心感を与えるコミュニケーション能力を身に付けたあん摩マッサージ指圧師は生き残ることができるのだと信じています。
繰り返しますが、AIの進歩、医療の進歩、少子化等の社会の変化の中で、視覚障害教育もまた、変革しなければなりません。10年後、20年後を見据えて、各地域で盲学校の在り方、理療の在り方を真剣に議論して欲しいと願っています。?