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会長挨拶・コラム COLUMN

令和3年6月:新しい風

第14代会長 工藤 滋 先生

会長 工藤 滋

世界では新しい風が吹き始めています。地球温暖化の問題は、先進国と途上国との主張の隔たりや、自国ファーストの考え方の拡がりから、先延ばしあるいは解決不能の課題として放置されてしまうかに思われました。しかし、グレタ・トゥンベリさんをはじめとする若者の積極的な活動により、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標は、今や世界のスタンダードになりつつあります。また、文化・芸術分野についても、長年アカデミー賞の投票権を持つ会員の大半は高齢の白人男性で、彼らの価値観による判断にしたがうのが当たり前と考えられてきました。しかし昨年、作品賞の選考対象になる条件として、出演者や制作者に、女性や有色人種、性的少数者、障害者などマイノリティーが一定数いることを求める新ルールが発表されました。これも多様性と平等を求める声に動かされての実現です。新しい風が、世界を動かし始めているのです。

そして理教連の内外にも、新しい風が吹き始めています。

昨年発足した理療教育に関する将来構想検討委員会は、若手・中堅の会員11名からなる委員会ですが、10月下旬から3月中旬までのわずか5ヶ月の間に4回の会議が開かれました。その中では、委員1人1人がこれまでに感じてきた理療教育の課題を率直に語り、それらのテーマに対して既存の枠組みにとらわれない自由な意見交換がなされ、毎回4時間以上にわたる議論が繰り広げられました。私はオブザーバーとして会議に参加しておりましたが、理療教育をよりよいものにしたい、その役割を担う理教連の活動に協力したいという熱い想いが伝わってきて、嬉しさ、たのもしさ、そして将来に向けての明るい展望を感じることができました。若い情熱的な風が、内部から理教連を動かし始めているのです。

一方、外部に向けてはどうでしょうか。理教連は、国家試験が視覚障害者にとって不利にならないようにするために、また生徒により良い教育を提供したり、進路先を確保・拡充したりするために活動してきました。理療科教員に対しても、研修の機会を提供したり、研究活動を行いやすいように、あるいは働きやすい環境を整備したりするために、様々な取り組みを進めてきました。けれどもその理教連の良さや必要性は、十分に伝えられてきていなかった気がします。理教連の存在意義が理解されれば、これまで以上に協力が得られ、成果も益々有効活用されるようになるに違いありません。

また、理療業に占める視覚障害者の割合の低下とともに、理療が視覚障害者の適職であるということの社会における認知度は低下してきていると思います。これは全国の視覚特別支援学校の先生方が、地域の学校、医療・福祉・労働等の関係機関に対して継続的に啓発活動を行ってきているにも関わらず、視覚障害者のための職業課程としての理療科に関する情報が、必要な方々に届いていないことからも明らかです。この現状を打破するためには、各校それぞれの活動に加えて、理教連が社会に向けて視覚障害者のための理療教育そのものについて情報発信していく必要があると考えます。

そこで私は、「情報発信」を理教連の重点施策の1つの大きな柱に掲げました。これは先人達が維持・継承・発展させてきた視覚障害者のための理療、理療教育、そして理教連の良さを整理して、新しい風として外部に吹き放つことにほかなりません。私はこの風を、より強い、より効果的なものにするために尽力していきたいと考えております。

ところで、私は、週末に家族の自転車伴走で街の中を走っています。それは、理教連の原動力となりつつある内部の風や、理教連から発する外部に向けての風に加えて、いつも自然界の新しい風を自分の肌で感じていたいからです。