会長挨拶・コラム COLUMN
令和3年10月:情報発信
会長 工藤 滋
全員が自己ベスト、多様性と調和、未来への継承を3つの基本コンセプトとし、世界にポジティブな改革をもたらす大会とすることを目指した東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が閉幕しました。様々な課題も残りましたが、「多様性」という点では、社会を大きく変えられた面があるのではないかと感じています。例えば、パラリンピックのテレビ中継についてみてみると、平均世帯視聴率は開会式で23.8%、閉会式で20.6%を記録しました。テレビ放映やネット上の動画により、多くの方々が障害者を目にし、障害者のことを知り、共生社会について考えるきっかけになったと思うのです。
さて、この東京2020大会を通じて視覚障害者の理療教育、理療業に関する啓発はどのぐらい進んだのでしょうか。残念ながらそれを知る術はありません。ただ、私も微力ながらこの機会を活用して、様々なところで理療に関する情報発信に努めてきましたので、その様子をご紹介いたします。
私は今大会においてフィールドキャスト(大会ボランティア)及びシティキャスト(都市ボランティア)として活動しました。それは、「日本では視覚障害者が積極的に社会参加しており、ボランティア活動までしている。ボランティア活動ができるのは職業自立しているからである。職業自立できているのは、日本では鍼やマッサージが視覚障害者の適職として継承・発展してきているからである。」ということを世界の方々に発信したかったからです。
最初の情報発信は、「動かせ。世界中の気持ちを!」「Tokyo Volunteer 2020 ボラサポフェス」というイベントへの動画提供でした。これはボランティアを対象としたオンラインイベントで、提供した短い動画は、他の多くのボランティアからのメッセージ動画とつなぎ合わされて、番組内で放映されることになっていました。そこで私は、「日本の多くの視覚障害者が仕事にしている、鍼とあん摩で、世界の方々をもてなしたいっ!!」と叫びました。このイベントには、3000名のボランティアが参加していましたので、それらの方々に私からのメッセージが届いたことと思います。
次にシティキャストとしての活動です。シティキャストは、元々観客の方々に対する案内・誘導や情報提供を主な業務としていましたので、無観客開催となったことで、活動内容は大きく変わりました。そしてその変更後の活動の1つとして、オンラインでの応援メッセージの投稿がありました。そこで私からは、「世界の方々に日本の視覚障害者が鍼とマッサージで職業自立できていることを伝えたい」というメッセージを投稿しました。これは英訳もされて公開されましたので、もしかすると全世界に広がったかも知れません。
そしてパラリンピックにおけるフィールドキャストとしての活動です。無観客となったことで世界だけでなく、全国への直接的な情報発信も困難となりました。ただその時、ボランティアの方々は積極的に様々なところで活動しているので、こうした方々に視覚障害者の理療教育、理療業について伝えていけば、その発信力を介して広く情報を拡散できるのではないかと気づきました。そこで活動中に話す機会のあった方々には、聞かれてもいないのに、「私は盲学校で視覚障害者に鍼やマッサージを教える教員をしています。盲学校と言うと、全然目が見えない人だけの学校だと思われがちですが、実際には弱視の方がたくさんいます。年齢制限もないので、大人になってから目が見えにくくなって入学して来る人もいます。ですから、もしもお知り合いで目が見えにくくなって、仕事に困っている人がいたら、盲学校で鍼やマッサージの職業教育を受けられるということを、教えてあげてください。」と言い続けました。
新聞やテレビの取材の際にも、必ず視覚障害者の理療教育、理療業についての話をしています。今のところ、そのメッセージを採用してくれたところはありませんが、私はめげません。少なくとも、取材してくれた方の心にはしっかりと刻み込まれると思うからです。
私は理教連会長として、できる限り理療に関する情報発信に努めています。けれども、私1人の活動には限界があります。もしも会員のみなさんが一歩前へ踏み出して、理療の情報発信にご協力してくだされば、それはもう百人力です。しかもみなさんの活動場面はそれぞれ異なりますので、多様な方々に理療への理解を広めていくことができると思います。
さあ、みなさん! 今日からお一人お一人がインフルエンサーです。それぞれの得意な場面で視覚障害者の理療教育、理療業について、思い切って情報発信していきましょう!!